こども園での講演会 (後編)

後半はメディアが子どもに与える影響についての話をしました。

ただ、自分はその分野の専門家でもないし、教育者でもないし、おまけに我が子を模範生となるよう育てることが出来たかどうかも疑問なので、他人様に偉そうに話す立場ではありません。

なのでこの話は避けたいと思っていたのですが、こども園さんからは是非これを取り上げてと言われました。

まあ、単なるいち小児科医として、いち父親としてという前置きをしたうえでの話です。
   
 
   

テレビやスマホ、そしてゲームなどのメディアは非常に利便性が高く、そして楽しく、現代社会では必要不可欠なものになっています。

しかし、これらがこどもに悪影響も与えてしまうことも周知の事実です。
  
  
年長児においては、暴力シーンがこどもの攻撃的行動を増大させ、メディアでの性への接触が性行動を低年齢化させます。

また、長時間のテレビ視聴やゲームの使用が学力低下につながっています。

この学力低下についてですが、おもしろいデータがあります。

テレビやゲームを長くしているけれど勉強もしているグループAと、テレビもゲームも勉強もしないグループBとの学校の成績を比較すると、グループAの方がグループBよりも成績が悪かったのでした。
  
  

更に、任天堂の “脳トレ” で有名な東北大学の川島隆太教授らの研究で、ネットを使う頻度が高い程、言語IQが低くなるし、画像診断で脳の灰白質や白質の発達が悪くなるというデータも報告されています。
Hum Brain Mapp  2018 39(11) 4471-4479

  
 
乳幼児に於いてのメディアの影響も大きなものがあります。

一般的に乳幼児期は、他者のしていることを見て、まねて、覚える観察学習が成長に大きな役割を果たします。

そして、善悪の判断や現実と空想の区別が十分に出来ていないため、メディアで見た危険な行動をそのまま真似てしまうこともあります。
 
 

アメリカ小児科学会では、

2~5歳の子どもにスクリーンメディアを見せる場合、

1日1時間に制限し、質の高いコンテンツを選ぶようにする。

養育者は子どもと一緒にメディアを見て、その内容や、その内容が彼らを取り巻く世界とどのように適用しているのか、理解する手助けする。

といった声明を出しています。
  
 

近年、メディアのなかでもスマホに接する (スマホがこどもに渡される) 時間が伸びてきています。

それに伴い、スマホ依存傾向を示唆する幼児の割合も増えてきています。

このため、日本小児科医会は2013年に”スマホに子守りをさせないで!” というポスターを作りました。
  
  
しかしこれに対して、教育者や他の医師からも、
  
”どうしようもないときにメディアを使う母親に罪悪感を与えてしまう”
 
とか、
 
”そんなにメディアを悪者にしなくてもいいのではないか”
 
といった異論も出ました。
  
  
2014年、お茶の水女子大学の菅原ますみ教授は、こどものテレビ視聴が与える研究を行いました。
(ただし、テレビ側のNHKのプロジェクトです。) 

その結果、テレビを長時間見ていても見ていなくても絵本を多く読んでいる子どもであればその子どもが発する語彙量は増えるということから、テレビの視聴時間が乳幼児の発達に影響を及ぼすということはないであろうと結論づけています。

更に、スマホ利用が与える影響を現在調査研究中であり、単にスマホに子守りをさせないでと呼びかけるのは時期尚早だと述べておられます。
(それから6年経った2020年、まだ調査中なのか、そのスマホの影響調査研究の途中経過や結論を私は探し出せませんでした。)
  
  

個人的には、小児科医会の考え方も、それに異議を唱えるひとのことも理解できます。

つまり、どのような家庭環境にあるこども達を念頭に置いているかで提言も違ってくるのです。

文学的な表現になってしまいますが、家庭環境の悪いところでは、それこそこどもをほったらかしにしているだろうし、スマホも質と時間の両方において好ましくない使わせ方をするのは想像に難くありません。

一方、家庭環境が良いところでは、スマホも適度に触れさせ、その分、からだを使った遊びや絵本の読み聞かせもたくさんしてくれているでしょう。
  
小児科医会は、前者のひと達を念頭に置いた提言であり、異論を唱える識者は後者のひと達のことを考えているはずです。

 


  
後半のメディアの話では、調べた情報をPTAの方に伝えたのですが、じゃあ、具体的にこうすべきといった教育的な話は出来ませんでした。

勿論それは最初からわかりきっていたことで、参加されたパパ・ママに不満はなかったように見えました。
(ちょっとほっとしました。)
   
   
   

講演の後、別室で園長先生から質問されました。

  
  
先生、鬼滅の刃ってどう思いますか?

  

そして、園長先生は続けて言われました。
 

この前、女の子がお人形を使ってままごとをしていたときなんですが、いきなり包丁でそのお人形の首を切ったんです。
  
びっくりして、どうしたの? って聞くと、
  
鬼退治だからいいんだよっ! って言うんです。

 
  
 

今、劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編が大ヒットしています。
 
現時点では国内の歴代興行収入が2位 とのことです。

レイティングはPG12であり、R指定はありません。
 
この映画については、ネットやテレビ・ラジオなどで、残忍性があるけれどその裏には ”生と死、そして愛とは何か” を教えているから大丈夫みたいなことを多くのコメンテーターが言っていました。
 
それを聞いたとき、コロナ不況を覆す起爆剤だから、スポンサーから水をささないよう言われたのか、単にコメンテーターが忖度しているのかなぁなどと勘ぐっていました。
 
 
もし、このこども園での女の子の話を聞いたら、コメンテーターは ”それでも大丈夫” とは言わないと思います (願います)。
  
先に述べたように、乳幼児は、メディアで見た危険な行動をそのまま真似てしまうこともあります。

この映画で大人が感動した死生観や愛を、幼児が同じように感じるのかはわかりません。

ただ少なくとも、こどもが感情移入している主人公が他者の首を斬っている画像は目と心に焼き付いているでしょう。
  
  

アメリカ小児科学会の提言のように、

この映画を見た子どもたちの全ての親が、ちゃんと我が子に丁寧な解説をしてくれているといいのですが・・・

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