予防接種 、、、
それは、私達を感染症から守るための非常に効果的な手段です。
そしてその必要性は、免疫が未熟で感染症に弱いこども達にとっては尚更です。
しかし小さなこどもにとっては、この予防接種が、それまでの彼らの人生で最も大きな試練の中のひとつなのです。
だから、注射の痛みを少しでも和らげるために、私達小児科医は様々なテクニックを使っています。
日本で多く使われているワクチンは、だいたい3種類になります。
ひとつ目は、麻疹や水痘などのような、弱毒化しているが、生きたウイルスを注射する ”生ワクチン”
2つ目は、ヒブや肺炎球菌、日本脳炎のような、病原体をバラバラにして感染能力を失わせた ”不活化ワクチン”
そして、3つ目は最近開発された、新型コロナウイルスに対する ”mRNAワクチン” です。
注射される薬液の痛みに関しては、生ワクチンの方が不活化ワクチンよりも痛くありません。
(また、今回のコロナワクチン接種の経験からは、mRNAワクチンも不活化ワクチンよりは痛くないようでした。)
さて、多くの小児科医が注射に際して行っていることには、
①冷蔵保管してあった薬液を室温に戻してから打つ
②複数のワクチンを接種する場合は、痛みの少ない生ワクチンから打つ
③刺入部の皮膚を張って打つ
などがあります。
他にも行っている小児科医は多くいると思いますが、
私は以下のようなことを、そのときの状況に応じ、組み合わせてやっています。
注射する部位をしばらくギュッと圧迫しておきます。
圧迫されたことで、針を刺すときの痛み、薬液の痛みが感じにくくなります。
こどもには、おまじないだよなどと言って私の親指を腕に押し続け、その後すぐに針を刺します。
同様に、注射予定部位を、アイスノンで冷やします。
これも痛みを麻痺させる作用があります。
ただ、冷たいのが嫌だという子もいます。
また、夏はいいのですが、冬は腕を冷やすと寒いと訴える子もいました。
なので、冬期は休止していました。
刺入部の周囲皮膚に、ボツボツした突起を持つプラスチックを押しつけることにより、注射の痛みを誤魔化します。
この商品はAmazonのアメリカサイトで買いました。
単純なものですが、これはアメリカから直輸入したんだと言うと、
患者さんからはちょっと有り難がられます。(笑)
鬼滅の刃は暴力的なシーンのため、小さい子には勧めたくはありません。
でも、ひとつだけ利用させてもらったことがありました。
それは、主人公が行っている呼吸法のうちのひとつ、水の呼吸です。
実は私は鬼滅の刃を殆ど見たことがないので、
水の呼吸が本当はどんな呼吸なのかわかりませんが、
純粋なこども達は私の言うことを信じてくれます (ごめんなさい)。
“ 水の呼吸って知ってる? 水の呼吸をすると痛いのに強くなるよ。”
と言ってこどもに深呼吸を行わせます。
“ 息をゆっくり鼻から吸ってぇ・・・
口からゆっくり吐いてぇ・・・ ”
これを繰り返し行わせます。
そして、ゆっくり息を吸っているときに、素早く針を刺します。
更に、水の呼吸を続けさせながら、薬液をゆっくり入れていきます。
一度、息を吐いているときに針を刺して
吐いている息がそのまま ぎゃぁーと泣き声になったので、
以後は必ず息を吸ったときに刺すようにしています。
え? 終わったの? と痛みを全く感じないこどもも結構います。
ただ、5歳以下の子は注射の恐怖心で水の呼吸がなかなか出来ません。
そんなときは、とっとと刺して素早く薬液を入れて注射を終わらせます。
あるとき、3歳の男の子が予防接種のために来院しました。
既に中待合室では大声で泣いているのが聞こえます。
診察室に呼び入れると、ママに抱えられながらギャン泣きの男の子が入ってきました。
ふと見ると、彼の手には、何かがしっかりと握られていました。
それは、おもちゃの道路標識のようでした。
私が、何の道路標識なの? と聞くと、
泣き止まないその子の代わりにママが教えてくれました。
駐車禁止です。
お見事! 座布団 一枚あげたい感じです。
この子のセンスに思わず感動。
そこで、記念に写真を1枚。
はい、笑ってぇー。
でも、やっぱり彼は笑ってくれませんでした。
ママから写真投稿了解済